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神戸地方裁判所 平成8年(シ)9号 決定

主文

一  申立人、相手方乙山、相手方丁原の間において、相手方丙川の有した別紙物件目録一記載の土地の借地権を、その内別紙物件目録二の1記載の土地部分についての借地権を申立人に、別紙物件目録二の2記載の土地部分についての借地権を相手方乙山に、それぞれ割り当てる。

二  申立人が、別紙物件目録二の1記載の土地について、堅固建物以外の建物の所有を目的とする賃借権を有することを確認する。

三  相手方乙山が、別紙物件目録二の2記載の土地について、堅固建物以外の建物の所有を目的とする賃借権を有することを確認する。

四  相手方丙川から申立人への第2項記載の土地についての借地権譲渡の対価額を金一三八三万七〇〇〇円と定める。

五  相手方丙川から相手方乙山への第3項記載の土地についての借地権譲渡の対価額を金三〇〇八万九〇〇〇円と定める。

理由

第一  申立ての趣旨

一  申立人

1  相手方丙川の有した別紙物件目録一記載の土地(以下「本件土地」という。)の借地権を、申立人、相手方乙山及び相手方丁原に対して相当に割り当てる(申立人に対しては本件土地の南側半分、少なくとも南側において公道に面する間口三・八六メートル、奥行き一一・五メートルの四四・三九平方メートルの部分が割り当てられるべきである。)。

2  申立人が、前項の割当土地部分について借地権を有することを確認する。

3  相手方丙川から申立人への第1項の割当土地部分の借地権譲渡の対価額の確定を求める。

二  相手方乙山、相手方丁原(以下右相手方両名を「相手方乙山ら」という。)

1  相手方丙川の有した本件土地の借地権を、相手方乙山ら及び申立人に対して相当に割り当てる(相手方乙山及び相手方丁原に対しては、最少限、本件土地中、「南側において、公道に面する間口三メートル、奥行き一一・八八メートルの三五・六四平方メートルの部分」を除く残土地全部が割り当てられるべきである。なお、相手方丁原に割り当てられる分を含め、相手方乙山への割当を希望する。)。

2  相手方乙山が、前項の割当土地部分について借地権を有することを確認する。

3  相手方丙川から相手方乙山への第1項の割当土地部分の借地権譲渡の対価額の確定を求める。

第二  事案の概要

一  本件は、阪神・淡路大震災で滅失した借家の借家人であった申立人及び相手方乙山らが、借家の所有者、賃貸人であり、敷地(本件土地)の借地人であった相手方丙川に対してそれぞれ罹災都市借地借家臨時処理法(以下「罹災法」という。)三条に基づく借地権譲渡の申出をした上で、罹災法一六条に基づき、譲り受ける借地の割当を求め、かつ、割り当てられる借地部分についての借地権の確認と、相手方丙川との間での割当にかかる借地権の譲渡対価額の確定を求めた事案である。

二  前提事実

以下の事実は,一件記録により本件の前提事実として認定できる。

1  相手方丙川は、本件土地を所有者の戊田梅夫から非堅固建物所有の目的で賃借し、地上に別紙物件目録三記載の建物(以下「本件建物」という。)を所有していた。

右本件土地の借地契約は昭和四五年一一月、平成二年一一月に更新され、借地残期間は平成二二年一一月まで、賃料は月額四万円となっている。

2  申立人は、本件建物の一階の一部(南側)を賃借し、同所で子供服小売販売業を営んでいた。

申立人の右借家契約は昭和五五年二月一日付けでなされ、敷金は二〇〇万円、賃料は平成四年二月以降月額一一万円となっていた。

3  相手方丁原は,相手方乙山の個人会社である。

相手方乙山らは、本件建物中申立人賃借部分を除く部分(一階北側及び二階全部)を賃借し、主に一階部分で書籍販売(丁原ブックス)を営むとともに、二階部分を一部事務所等、他を相手方乙山の住居としていた。

相手方乙山らの借家契約は、昭和五二年九月からの相手方乙山の契約(一階北側部分。敷金二五〇万円、平成六年九月以降の賃料は月額一二万円となっていた。)と、平成六年四月からの相手方丁原の契約(二階部分。敷金一〇〇万円、賃料月額一〇万円)。に分かれており、その実際の使用状況は前記のとおりであった(契約関係と合致しない使用関係は相手方丙川の承諾を受けた転貸借関係。)。

4  本件建物は、平成七年一月一七日発生の阪神・淡路大震災によって被災し、滅失した。

5  申立人は、平成七年一〇月七日到達の書面で、相手方丙川に対し、罹災法三条に基づく本件土地借地権譲渡の申出をした。

他方、相手方乙山らも、相手方乙山について同年九月一二日到達の、相手方丁原について同年一〇月二〇日到達の、各書面で、相手方丙川に対し、罹災法三条に基づく本件土地借地権譲渡の申出をした。

6  相手方丙川は、本件土地上に建物再築の予定はなく、申立人及び相手方乙山らの間で話し合いがつけば、どのような形であれ本件土地借地権譲渡に異存はないとしている(当初は、対地主との関係上、協議して譲受人を一名にしてもらいたい旨希望していたが、現在では申立人、相手方乙山の協議ないし裁判所の決定に従うとしている。)。

7  本件土地は、近隣商業地域、準防火地域に指定され、建ぺい率八〇パーセント、容積率三〇〇パーセントとなっている。

三  争点

1  本件土地借地権を、申立人、相手方乙山ら間でどのように割り当てるのが相当か。

2  右割当を前提としたそれぞれの借地権譲渡の相当対価額の算定。

第三  当裁判所の判断

一  前提事項について

1  申立人、相手方乙山、同丁原の相手方丙川に対する罹災法三条に基づく借地権譲渡申出の時的関係は前記第二の二の5のとおりであるが、申立人も相手方乙山らも、相手方丙川との間で確定した借地権譲渡の合意には至っていなかった(相手方丙川と相手方乙山との間では、申立人及び相手方乙山ら間の合意ができることを条件とする譲渡代金額の協議もなされたと認められるが、最終合意には至っていない。)と認められる。したがって、本件では、同一の借地権について申立人及び相手方乙山らから罹災法三条に基づく借地権譲渡の申出があったものとして、同法一六条に基づく借地権の割当が必要となる。

2  なお、罹災法一六条に基づく借地権の割当について、各自に借地対象土地を定めて割り当てるとすると、従来一個の借地契約に基づく一個の借地であったものが、地主の関与なしに複数の借地に分解されることになるが、罹災法三条、四条及び一六条の法意に照らしてやむを得ないものと解される。本件土地全部についての借地権を、一定の持分割合で各自に割り当てる(結果的に借地権の準共有状態となる。)処理も可能であるが、かくては現実の土地利用の方法について改めて紛議を生じかねないし、対地主との関係でも一層権利関係が複雑化する恐れも大きく、相当とは解されない。

よって、本件では各自に借地対象土地を定めて借地権を割り当てることとする。

二  争点1(本件土地借地権の割当)について

1  割当の基本方針

当裁判所の本件土地借地権の割当についての基本方針は次のとおりである。

(一) 割当借地の面積は、各自の従前の本件建物の占有使用割合(便宜借家割合という。)に比例して定めるのが衡平に適すると認められるから、これによることとする。ただし、右借家割合は階層別効用比を考慮して査定する。

(二) 申立人も相手方乙山らも、ともに本件建物一階店舗部分で営業を営んでいたのであり、再築予定建物でも前同様の営業を計画していると求められるから、従前同様の営業が可能となるだけの間口(西側公道に面する部分)の確保が可能となるように定める。

(三) 右(二)の処理による不均衡の是正は、奥行き部分で調整する(この場合、借地の効率化を考慮する。)。

(四) 本件土地は西側で公道に面しており、本件建物の一階南側が申立人の借家部分、一階北側及び二階部分が相手方乙山ら借家部分であったから、借地権割当に当たっても、南側を申立人に、北側を相手方乙山らに割り当てることとする。

(五) なお、相手方丁原は相手方乙山の個人会社であり、利害関係の対立もないと認められるから、これを一体で割り当てる(借地権の準共有となる。)のが相当であるところ、相手方乙山らは、相手方丁原に割り当てられるべき部分を含め、相手方乙山への割当を希望しているので、これに従うこととする(本件では右の処理も、罹災法三条の借地権譲渡申出権自体の譲渡が許されないことには抵触しないと解される。)。

2  割当に際しての前提事実

(一) 本件土地の公道に面する西側間口は別紙見取図表示のとおり八・一五メートル、地積は一三三・八八平方メートルと認める。

右数値は確定測量によったものではないが、双方(申立人及び相手方乙山ら。以下に「双方」という場合も同様。)これを前提とすることで一致しており、右のとおり認められる(鑑定委員会の意見提出後に提出された相手方乙山らの主張中には右前提に疑問を呈する部分もあるが、右前提と異なる形状、地積を認める資料はない。)。

(二) 本件建物の占有使用状況は、概略次のとおりである。

申立人は、本件建物本体の一階部分約四五・五二平方メートル。相手方乙山らは、本件建物本体の一階部分約五〇・七四平方メートル、一階倉庫・トイレ等部分約六・七三平方メートル、及び本体二階部分約八九・八〇平方メートル。

以上はほぼ本件建物の震災前の現況を表していることに双方争いのない相手方乙山らの平成八年三月一九日付け申立の趣旨変更の申立書添附の別紙図面(二)による(もっとも、同図面表示の各寸法には矛盾点等があり、双方の借家割合の認定に当たっては後記のとおり双方主張の借家面積を前提とする借家割合の平均値を採用する。)。

(三) 申立人の本件建物借家部分の従前間口は壁芯間で二・九五メートル(実効間口二・八五メートル)、相手方乙山らの本件建物部分の従前間口は壁芯間で三・五五メートルであった。

(四) 本件土地を含む甲田町商店街においては、隣接地境界から壁芯で〇・二五メートルの壁面後退をするとの合意がほぼ形成されており、また本件土地は準防火地域の指定を受けているから、外壁を耐火構造とすることにより境界に接した建築も可能である(建築基準法六五条、最高裁平成元年九月一九日判決)。

3  具体的割当

(一) 双方の従前借家割合は、本件建物の階層別効用比を一階二、二階一として計算し、申立人の比率を三一・五パーセント、相手方乙山らの比率を六八・五パーセントと認める(申立人主張の各占有使用面積を前提とした場合の三二・二二パーセント対六七・七八パーセントの比率と、相手方乙山ら主張の同様の面積を前提とした場合の三〇・七八パーセント対六九・二二パーセントの比率の平均値。前認定の占有使用面積を前提とすれば申立人約三一パーセント、相手方乙山ら約六九パーセントとなるが、右数字も所詮概数にとどまるので、むしろ双方の主張を前提とする値の平均値をもって算定するのが相当であると認める。)。

この点について、相手方乙山らは、階層別効用比率は一階を一・五、二階を一とみるべきであると主張するが、本件建物は営業用店舗を主とするものであって、右二対一の効用比は本件鑑定委員会も概ね妥当と肯認しているところであり、前記震災直前の賃料額(改訂等の時期にずれはあるが、一階部分計二三万円、二階部分一〇万円)と対比しても,効用比は二体一とみるのが相当である。

(二) 右認めた双方の借家割合に従って単純に借地間口を割り当てると、申立人には二・五六七メートル、相手方乙山らには五・五八二メートルと計算される。

(三) しかし、申立人への右割当借地間口を前提とすると、境界からの壁面後退を南側及び北側に壁芯距離各〇・二五メートル取った場合、建築可能な建物間口は最大で壁芯間二・〇六七メートルとなり、申立人の従前建物間口(壁芯間で二・九五メートル)を大きく下回ることとなるところ、元々従前間口が大きくなかったことからすると、右割当間口では従前と同様の営業が成り立たないという申立人の主張を排斥することは困難である。

他方、申立人に対して従前同様の建物間口が確保可能な借地間口、すなわち従前の壁芯間口二・九五メートルに南北の壁芯後退各〇・二五メートルを加算した借地間口三・四五メートルを割り当てた場合、相手方乙山らへの割当借地間口は四・七メートルとなる。右借地間口によれば、同様に南北の壁芯後退各〇・二五メートルを差し引いた可能最大壁芯間間口は四・二メートルとなり、これは従前の同相手方らの壁芯間間口三・五五メートルを超える数値となる。

以上検討の結果によれば、当事者の衡平を図る観点からみて、間口については、申立人に対して従前と同様の建物壁芯間口二・九五メートルが確保可能な借地間口である三・四五メートルを割り当て、これによる不均衡は奥行きの調整によるのが相当である。

(四) 借地割当比率は前記(一)で認めた従前借家割合によるべきであるが、右(三)の処理の結果相手方乙山への割当地は逆L字となるから、不整形地としての修正を要する。この点については、後記鑑定委員会の意見に従い、申立人への割当地単価を一〇〇とした場合の相手方乙山への割当地の単価を九〇として計算することとし、右計算結果によれば、申立人への割当地は三九・一九平方メートル、相手方乙山への割当地は九四・六九平方メートルとなる(後記4の(一)の<6>のとおり)。

(五) 右申立人への借地割当面積と、(三)で認めた相当間口によれば、申立人への割当地は別紙物件目録二の1記載のとおり(間口三・四五メートル、奥行き一一・三六メートル)となり、相手方乙山への割当地はその余の部分(同目録二の2。間口四・七メートル、面積九四・六九平方メートル)となる。

4  右割当についての検討

(一) 鑑定委員会の意見について

本件について鑑定委員会は、当裁判所の諮問に答え、借地の割当については「申立人に対し本件土地の南側で間口三・七五メートル、奥行き一〇・四五メートルの三九・一九平方メートルを割り当て、その余の部分を相手方乙山らに割り当てるが相当である。」旨の意見書を提出している。

鑑定委員会の意見は、「商店街一階の店舗にとって営業間口は特に重要な要素となっていることは、容易に理解することができる」との認識から、<1>間口は基本的には従前の店舗間口の比率で割り当て、本件建物の借家権割合から算出される借地割合との不均衡は奥行きで調整する、<2>壁厚は具体的建築計画の如何によって左右されるから店舗間口は壁芯で考察する、<3>〇・二五メートルの壁芯後退の申し合わせに従い、店舗間口として使用不能な各〇・五メートル(双方にとっての南側及び北側の各〇・二五メートル)を予め借地間口八・一五メートルから控除した七・一五メートルを建築可能間口とする、<4>右建築可能間口を従前の店舗間口比(申立人二・九五メートル、相手方ら三・五五メートル)で割り振り、これに各壁芯後退分の〇・五メートルを加算した結果、申立人に対して三.七五メートル、相手方らに対して四・四〇メートルを割り当てるのが相当である、<5>従前の本件建物の借家占有使用割合を申立人三一・五パーセント、相手方乙山ら六八・五パーセントと査定する(根拠は前記当裁判所の認定手法と同様)、<6>双方への借地割当は右三一・五パーセント対六八・五パーセントの割合とする。ただし、結果的に相手方乙山らへの割当部分が逆L字型となることから、申立人への割当地単価を一〇〇とした場合の相手方乙山らへの割当地単価を九〇と査定し、申立人への割当面積を三九・一九平方メートル、相手方乙山らへの割当面積を九四・六九平方メートルとする(X+Y=一三三・八八平方メートル、一〇〇X対九〇Y=三一・五対六八・五、の連立方程式の解による。)、<7>右申立人への割当面積三九・一九平方メートルと、<4>の間口から申立人への割当土地を本件土地の南側において間口三・七五メートル、奥行き一〇・四五メートルと定める、としたものである。

以上の鑑定委員会の意見はもとより傾聴に値するものであり、右<2>及び<5>、<6>については当裁判所もこれをそのまま採用することとするし、同<1>の間口配分方針にも合理性が認められない訳ではない。

しかし、本件借地割当に当たっては、まず従前の借家割合を基本とし、これによって申立人に従前同様の営業が不能となる場合に初めて修正を加えるとの観点によるのが相当であって、この観点から鑑定委員会意見を修正すれば前記当裁判所の割当となる。

(二) 申立人の主張について

当裁判所の割当は、申立人に対して従前と同じ壁芯間口二・九五メートル(実効間口二・八五メートル)を確保することが可能な借地間口を割り当てるものであるが、申立人は、本件土地南隣のコープ甲田との関係及びアーケード柱との関係から南側において境界からの壁芯後退が〇・五メートル必要であり、これに北側境界からの壁芯後退〇・二五メートルを取り、壁厚を〇・一五メートルとすると、従前の実効間口二・八五メートルを確保するためには借地間口として三・七五メートルが必要となると主張する。

しかし、コープ甲田との関係で〇・五メートルの壁芯後退が必須となるとは認め難い(第三の二の2の(四))し、現在のアーケード柱が営業上一定の障害になる恐れは否定できないものの、同柱によって建物建築が阻害されるとも認められず、将来とも右柱が現在地に置かれるかも不明である。また、壁厚は申立人の建築計画の如何による事柄であり、〇・一五メートルの壁厚を前提とすることもできない。

(三) 相手方乙山らの主張について

同相手方らは、本件土地借地権割当は従前の借家割合によって定められるべきであり、営業のために必須の間口は申立人に割り当てるとしても、申立人の営業のためには従前間口と同一の間口までの必要性はなく、これに対して相手方乙山らの営業上間口拡大は切実な要請である等と主張する。

しかし、営業上重要と認められる西側公道に面する一階間口についてみれば、従前の相手方乙山らの壁芯間口は三・五五メートルであったのに対し、当裁判所の割当では最大で壁芯間口四・二メートルが可能となる(前記第三の二の3の(三))。申立人の必要間口の数値は、もとより営業政策にもよる事柄であるが、右のとおり相手方乙山に対して従前以上の間口確保が可能である以上、申立人にも従前確保していた間口は確保可能なように割り当てるのが衡平に適するというべきである。

更に、相手方乙山らは、逆L字形の相手方乙山らへの割当地単価を整形な申立人への割当土地単価の九割とすることは不当であると主張するが、不整形地は相手方乙山らへの割当地の二割以下の部分であるし、右評価は鑑定委員会の意見によるものであって、これを不当とすることはできない。

(四) 以上検討の結果によっても、前記具体的割当は相当と解される。

三  争点2(借地権譲渡の相当対価額について)

1  鑑定委員会は、相手方丙川から申立人への申立人割当土地部分の借地権譲渡の対価額を金一三八三万七〇〇〇円、相手方丙川から相手方乙山への相手方乙山割当土地部分の借地権譲渡の対価額を金三〇〇八万九〇〇〇円と定めるのが相当である旨の意見を提出している。

右意見は、<1>本件土地の更地価格を九二三七万七二〇〇円(四件の取引例からの比準価格と付近公示価格からの規準価格を関連付けて平方メートル当たり六九万円と認定)、<2>通常の借地権価格を五五四二万六〇〇〇円(更地価格の六〇パーセント)、<3>本件建物についての旧借家権価格を計二三〇〇万円(差額還元方式による試算価格三〇七五万七〇〇〇円、収益価格控除方式による試算価格一四八二万八〇〇〇円、割合方式による試算価格二八六八万三〇〇〇円を関連付けて認定)、<4>罹災法一五条にいう従前の賃貸借の条件その他一切の事情の考慮として通常の借地権価格から右借家権価格の二分の一に当たる一一五〇万円を控除するのが相当、とし、以上による本件土地借地権全体の相当譲渡価格を四三九二万六〇〇〇円と算出した上で、これに双方への割当率(申立人三一・五パーセント、相手方乙山六八・五パーセント)を乗じて算出したものである。

当裁判所は、鑑定委員会の意見を相当と認め、これに従うこととする。

(前記のとおり借地土地の割当について当裁判所と鑑定委員会は一部見解を異にするが、右は間口割合についてのみであり、全体の割当比率自体について見解を異にしている訳ではないから、対価額の確定について鑑定委員会意見に従うことに矛盾はない。)。

2  申立人は、鑑定委員会が通常の借地権価格から旧借家権価格全部を控除していない点を不当と主張するが、借家権は借地権と異なり取引慣行のあるものは少なく(本件についても借家権取引慣行があったとは認められない。)、積極的な財産権と認めることは困難で、借家権価格も主に借家人の不随意立ち退きの場合に働くものであるところ、本件は震災という不可抗力によって借家権が消滅した場合の利害調整に関するものであるから、旧借家権価格の全額を控除対象とすべき必然性はない。鑑定委員会は、以上を考慮の上、衡平の観点から旧借家権価格の半額を控除対象としたものであり、妥当と認められる。

3  また、申立人及び相手方乙山らは、相手方丙川との事前折衝の過程で、相手方丙川に支払う借地権譲渡代金を三〇〇〇万円(このうち地主に対する譲渡承認料五〇〇万円)とする話があった等と主張する(鑑定委員会意見提出後に出された主張である。)。しかし、右金額は、早期に申立人、相手方乙山ら間の合意が成立し、決済もなされることが条件となっていたもので、確定した合意として成立してはいないと認められる(第七回審問における相手方丙川代理人の陳述。もっとも相手方丙川は、申立人、相手方乙山らの間の争いが円満に解決されるのであれば、必ずしも鑑定委員会意見にこだわらないともしているが、これは爾後の全当事者の折衝に委ねられる問題である。)。

4  なお、罹災法三条の規定による借地権譲渡については地主の承諾が擬制されている(罹災法四条)から、当然に地主に対する譲渡承諾料(借地権譲渡承諾の借地非訟手続上の財産上の給付に相当する。同手続上の給付義務者は譲渡人である。)が必要となるかには疑問がある。しかし、譲渡承諾料は不要としても、借地権譲渡に際して一時金の給付がない場合、爾後の借地関係について右事実が影響することは否めないと思われるので、地主に対し相当の一時金を支払うとの対処はむしろ望ましいともいえる(この観点からは、譲渡代金額から相当譲渡承諾料相当額を控除し、爾後の地主との折衝は譲受人に委ねるとの方法が考えられる。)。

ところで、本件罹災法三条に基づく借地権譲渡(及び一六条による借地権割当)については、従前から相手方丙川が地主との折衝に当たっており、申立人、相手方乙山らも相当金員を支払うことを含む地主との折衝を相手方丙川に委ねたいとし、相手方丙川もこれを了承しているから、本決定では譲渡承諾料についてはこれ以上特に検討しないこととする。

四  結論

以上の次第で、主文のとおり決定する。

(裁判官 小島正夫)

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